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「暮らしのきほん」に立ち返るために、畑の真ん中で立ち止まってみる。

電車に2時間揺られて、茨城県石岡駅へ。
高いビルばかりだった車窓からの風景はいつの間にか、萌黄色の田園風景へと変わっていた。

そしてそこから、バスに揺られること30分。

都会を離れるには、それなりの時間がかかるみたい。

少し動くだけで汗ばむ気候と、田舎のおばあちゃん家と似た風景は、まだ6月になったばかりだというのに「夏休みはじまったー!」と叫びたくなるほどに私の心を高揚させた。

目的地は、有機農業をしている「やさと農場」
季節のお野菜はもちろん、豚や鶏も飼育しているのが特徴で自給自足な農的暮らしをするにはぴったりの場所。

元恋人と何度も訪れた場所。
農場に足を運ぶことに、最初は戸惑いがあった。
幸せな思い出がたくさん詰まった場所、訪れたら私の中の何かが崩れてしまいそうで、怖かった。

それなのに、どうしてだろう。
どうしても行かなきゃいけない気がしたのは。

* * *

失恋もして、仕事も髪色も変わった私を、いつもと変わらず、「おかえり」と迎え入れてくれた。

いつもと変わらないあたたかさに、胸をなでおろした。

無理して笑顔なんて作らなくても、ここにくれば自然と笑顔になれるんだなって。

* * *

久しぶりな顔を見ながらのお昼ご飯を済ませると、畑に出る。

東京から着てきたオーバーオールに長靴が不釣り合いだけど、東京の匂いがついた服を早くやさとの匂いに染めてしまいたかったように思う。

いっぱいの太陽と愛情を受けて育った野菜は、弾けそうなほどに実がぱんぱんだった。

新じゃがに玉ねぎ、春菊、ズッキーニ、にんじん、そら豆、キャベツ、レタス…

大人も子供もはしゃぎながら、野菜を収穫していく。

ズッキーニの葉っぱがチクチクして手に当たると痒くなっちゃうこと。
大根を抜くときは時計周りにねじると抜きやすくなること。

実際に畑に立つとわからないことだらけだった。
目の前に成っている野菜だって、どれが食べごろなのかわからなくて、しばらく悩んでしまう。

いつも手にとって、口にしているはずなのに。

* * *

畑から戻ると、収穫した野菜を元にどんな献立にするか、みんなで会議。

採れたて野菜たっぷりのサラダに、ほくほくの新じゃがに、レタス焼売に、スコップドコロッケに、にんじんとそら豆のゼリー。

自分たちでが採ってきた野菜たちをみんなでキッチンにならんで、お夕飯の準備をする。

きっと、本当なら当たり前のことなはずなのに、すっかりと現代の暮らしに馴染んでしまった私たちには新鮮に感じる。

* * *

太陽と共に目を覚まし、動物たちのお世話をして、野菜の収穫をして、ご飯を作って食べる。

そんな「暮らしのきほん」を、東京という時間の流れが早くて刺激的な街にいると忘れてしまう。
もちろん、そんな東京も好きなのだけど。

スーパーで買う野菜もお肉も生産者さんがいて、汗水流して作っている。
直接、農家さんの顔を見ることなんてなかなかできないけれど、この食材の裏には農家さんの想いや命があること、忘れたくないな。

ゆっくりと流れていく雲のように、ゆっくりと暮らしを紡いでいけばいいんじゃないかな。